「不可能」をくつがえせ!低予算でフリーズドライ自作してみた
はじめまして。
凪双れん(なふたれん)と申します。
みなさんはフリーズドライ、食べてますか?
私は大好きなので購入した瞬間すべて消費します。
食べたいときにすぐに食べられて、日持ちして、美味しい。フリーズドライ食品の誕生はまさに保存食界の革命でしょう。
身近なものではカップ麺の「かやく」やお味噌汁、スープなどがありますが、最近はカツの卵とじやパスタまでもがフリーズドライになっています。
いや、可能性無限大かい。
すごすぎるでしょ。なんでもフリーズドライになるじゃん。
今後もどんな製品が出るのか、私一同心から楽しみにしてます。
……さて、そんなフリーズドライ食品ですが、ある日とんでもないことに気付いてしまいました。
『フリーズ(凍らせて)ドライ(乾燥させる)』ってもしかして……!!
フリーズドライって家でも作れるのでは!?
そう、名前の通りに作られているのなら、食品を凍らせて乾燥させればフリーズドライ食品が作れるはずです。
そして自分で作れるということは……
私だけのオリジナルフリーズドライ食品も作れてしまうのでは!?
早速調べてみましょう!
「フリーズドライ 作り方」で検索だ!!
ドライフルーツなら家でも作れます!
数十万円する専用の機械がないと作れません。
無理です。
おぅふ。
この後もいろいろ調べてみましたがとにかく不可能だと書かれまくっています。
どうやら思っていたほど簡単ではないようです。
でもさ……
これだけ無理だ無理だと言ってる記事が多いほどさ
その定説、覆したくなるよね
オリジナルじゃなくたっていい。
ぼくがかんがえたさいきょうのやりかたでフリーズドライ食品を作ってみたい。
とにかく何でもいいからフリーズドライ自作したいしたいした~~~~~い!!!!!!!!!
とはいえ私は最近社畜を辞めて自宅の守護神へと進化を遂げた身。
口座の残高も守護の対象なので、よくわからん機械のために数十万円なんてとても払えません。
できる限り出費は抑えたいところです。
ということで今回は……
どうやって作るの?
※ここからしばらく理科の教科書みたいな内容の説明が続きます。
フリーズドライができる理屈に興味がない方や、「物理」と聞いただけで全身に蕁麻疹が出る私と同じ体質の方は飛ばしちゃって大丈夫です!
そもそもフリーズドライは工場でどのように作られているのでしょうか?
凍らせて乾燥させるというのは名前の通りですが、フリーズドライでは乾燥させる方法が少し特殊です。
乾燥させるために食材の周りを真空にする必要があります。
食材が凍った状態で周りを真空にすると、食材の中の氷が水蒸気になって勝手に抜けてくれるんだそう。
はぇぇーーーー。
かがくの ちからって すげー!
そして今回のように自作する場合には凍らせる方法にも工夫が必要です。
フリーズドライにするためには、食材を素早く凍らせなければなりません。
通常、フリーズドライにするものは-30℃の最強ひえひえ冷凍庫で凍らせます。
フリーズドライは「お湯をかけると元に戻る」というのが特徴的ですが、これは-30℃という低温で細胞を壊さず素早く冷凍しているからできることです。
一方、我が家には-18℃までしか冷えない家庭用の普通の冷凍庫しかありません。
通常の冷凍庫では温度が高いので凍るまでのスピードが遅く、凍らせた食材の細胞が壊れてしまいます。
つまり我が家の冷凍庫の温度では圧倒的パワー不足。
でも業務用冷凍庫を買う予算はありません。我が家の冷凍庫を使って、少しでも早く冷やす方法さえあれば……。
ということで今回はお酒の力を借ります。
水とは違って、-18℃でも凍らない強烈なお酒の力を。
同じ温度で何かを冷やす場合、
冷凍庫のように冷風で冷やすよりも冷えた液体に浸けた方が早く冷えます。
これを利用して、冷凍庫でも凍らないお酒(液体)の中に食材を浸せば、ただ冷凍庫に入れるより早く凍らせることができるはずです。
早く冷やすための方法は、温度を低くすることだけじゃないのだよ!
……と、長々どうすれば作れるのか、私の灰色の脳細胞をこねくり回して、今回はこんな方法でフリーズドライにしていきます。
これ以上考えると知恵熱で焼き鳥になってしまいます。さっさと必要なものを準備しましょう!
準備しよう
「真空」となると我が家にあるものだけでは無理なので、いくつか必要なものを買い揃えましょう。
ということで今回用意したのがこちら!
本来はエアコンの取り付けなどに使う「真空ポンプ」と、
レジンを使った手芸などに使われているらしい「真空チャンバー」です。
この二つをつなげてチャンバーの中の空気をポンプで吸い出せば、チャンバーの中を真空にすることができます。
あとは冷凍するのに使うアルコール度数の高いお酒。
こちらのお酒は『スピリタス』といってアルコール度数が96度あります。
アルコール度数が25度くらいあれば冷凍庫でも凍らないらしいのですが、今回わざわざこんな凶悪なお酒を選んだ理由はただ一つ。
一度飲んでみたかったから。
それだけです。フリーズドライとは一切関係ありません。
この3つ+食材費で25,000円以下です。
これで本当にフリーズドライが自作できるのならば数十万円するフリーズドライ専用機械を購入するより圧倒的に安く作ることができますが、果たして……?
それでは、機材がそろったので実際に食材をフリーズドライにしてみましょう!
フリーズドライ食品を作ってみよう!
①食材を用意する
まずはフリーズドライにするものを用意しないと何も始まりません。
インターネットから得た情報によると、フリーズドライ専用の機械もなしにフリーズドライ食品を自作するというのはなかなか無理があるようなので、この食材選びも成功を左右する重要な選択になることでしょう。
すぐに凍って水分も抜けやすいように、薄くて水分の多すぎないもの……。
ということで薄切りのりんごを選びました。厚さは2.5mm。
……え?「こんな薄っぺらいりんご1枚かよ」って?
そうです。
何が何でもフリーズドライを成功させたいので手段は選びません。
だってこんな薄いりんごでもフリーズドライに出来てしまえば「自作は不可能」ではなくなるから。
②お酒に浸す
では先ほど切ったりんごを凍らせます。
お酒は金属の容器に入れてあらかじめ1日以上冷凍庫で冷やしておきました。
(保冷剤多すぎだろ、と思った方はご連絡ください。着払いで送りつけます。)
直接お酒に触れないようにりんごをスーパーでもらえる薄いビニール袋に入れ、この中に浸していきます。
凍るまでにどのくらい時間がかかるかわからないので、明日までこのままにしておきましょう。
次の日
さて、ちゃんと凍っているでしょうか……?
果実酒になっていました。
どうやらビニール袋の縛り口までお酒の中に浸していたせいで袋の中までお酒が入ってしまったようです。
ビニールに入れた意味ないじゃん。
ただのりんごではなくなってしまったので、念のため味見しておきます。
冷tあ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!舌が痺れるっっっっっっっっ!!!!!!!!!!
危険物を作ってしまいました。
たった一口でアルコールがものすごい勢いでぶん殴ってきて口の中のあらゆる感覚がマヒします。
ただその猛攻の隙間にほのかなりんごの甘さと風味も感じます。
元々はかなり甘いりんごでしたが、甘みの大部分はお酒に溶けだしてしまったようです。
味は変わってしまいましたが、りんご自体はカッチカチに凍っているのでこのまま乾燥させていきます。
りんごでもスピリタス香るりんごでも、どちらでも成功してしまえばフリーズドライだもんね!!!
③真空にして乾燥させる
それでは真空ポンプと真空チャンバーをつなげて先ほどのりんごの周りを真空にしてみましょう。
りんごの表面どこからでも水分が抜けるように通気性の良さそうな何か(これまじで何?茶漉し?)に入れ、
チャンバーの中にセットし、ポンプとつなげて……
スイッチオン!
ドドドドドドドドド
ガガッ ブォーーーーーーーー
減圧が始まり…………ません。
空気漏れがなければチャンバー内の減圧が始まるのですが、このチャンバーの蓋と容器の接合部にちっちぇ~~~~~~異物が一つでも付いていると空気が漏れます。
このチャンバー、製造過程に問題があるのか元々細かい砂のようなものが蓋のシリコン部分に大量に付着しており、拭ってもきれいに取れないのでうまく密着させられず減圧がなかなか始まりません。クソです。
少しずつ蓋をずらしながら上から押さえつけて「いい感じのポイント」を見つけるとようやく圧力が下がり始めてチャンバーの上についている真空計の針が回ります。
こんな無駄な作業をしたくなければもっといい製品を買え、ってことですね。
減圧が始まって1分ほどで真空計の針が目盛りを大きく超えて止まりました。
青の線が「本来なら針はこの辺指すはずだよな~」って位置です。
最初からほぼ同じ角度分ずれているだけだとすると今、チャンバー内は真空になっているはずです。わかんないけど。多分。
ここからはこのままポンプを動かし続けて中のりんごを観察していきます。
真空になって30分後
切ったときに薄くなってしまった端っこが丸まってきました。
50分後
さっき見た状態からほとんど変化がありません。
これちゃんと水分抜けてる……?不安になってきました。
1時間15分後
明らかにカサカサになってる!!!
これはなかなかいい線いってる気がしてきました。
もしかしなくても成功するのでは……?
と、ここで一つ思い出したことがあります。
工場でのフリーズドライの作り方に「ある程度水分が抜けたら真空のまま温度を上げる」みたいなことが書かれていた気がする……。
多分完全に水分を飛ばすためにやってるんだと思います。
――おんどを…あげる……?
今回は水分の抜けやすさを考慮してりんごに極力何も触れないようにチャンバーに入れました。
チャンバーごと湯煎にかけたとしても、真空では空気がめちゃめちゃ薄いのでりんごに熱は伝わりません。
――ということは?
詰 ん だ
詰みました。ありがとうございました。
いや、まだ諦めるわけにはいきません。せっかくいいとこまで来たんだから!!
フリーズドライの原理を見る限り、温める作業は必須ではない……はずです。
温める代わりになるかわかりませんが、もう少しこのまま真空状態を維持してみましょう。
2時間後
色が変わったように見えるかもしれませんが、西日が当たっているだけです。
先ほどまでと見た目の変化はありません。
ここでポンプのスイッチを切ります。
チャンバー内が元の気圧に戻っていきます。
果たして水分は抜けたのでしょうか。
最後に温めなかった影響はあるのでしょうか。
フリーズドライは、自作できるのでしょうか……!!?
SUPER DRY……
パッサパサのカッサカサになりました。
水分の気配すらありません。
扇風機(弱)の風で揺れるくらい軽いです。
これはかなり「ぽい」ぞ……!!!!!
一度作れたものなので時間をかければ同じものが作れるはずですが、現時点では貴重なサンプルなので4等分にします。
切るときに下のお皿と擦れて「キュイッ」と音が鳴りました。
「水分が抜けきっている」感がすごい……!
一番右の曲がってしまった部分が風で転がっていくので早く食べてみましょう。
そのままと、お湯と水で戻したもの、3種類を食べ比べます。
そのまま食べる
口に入れてもパッサパサです。なんこれ?
りんごの風味と、アルコールは抜けているのにスピリタスの香りが残っているのがなんとも不思議な感じ。
……え?味?
ほんの~りあまい紙
お湯で戻す
ここにりんごが浸る程度のお湯をかけて15秒待ちます。
乾燥させる前よりは厚さがちょっと薄い気もしますが、ちゃんと水分を吸ってくれたようです。
そのまま食べた時と比べると甘みを感じやすい気がします。
これはほぼ乾燥させる前に食べたお酒に漬かったりんごと同じ味です。
ただ、食感はカップ麺のかやくのフリーズドライ野菜のような独特のシャキシャキ感があります。
水で戻す
お湯よりは長く、30秒冷水につけてゆっくり戻してみました。
見た目や味はお湯で戻した時と変わりませんが、こちらの方がより本来のりんごらしい食感になりました。
お湯と水の違い、というよりは時間をかけて水分を戻した方が内側まで水分が浸透するのかもしれません。
豆腐もフリーズドライにしてみた
フリーズドライっぽいものができあがったので「こんなもんでいいかなぁ……」という気持ちもあります。ですが……
りんごはアルコールに漬かったものしか乾燥に成功していません。
アルコールに漬かっていない、普通のりんごではことごとく失敗に終わっています。
普通に凍ったりんごは乾燥させる途中で「濃縮したんか?」ってくらい甘い水分が出てきてしまうので、凍ったまま乾燥ができません。
りんごから出てくるめちゃめちゃ甘い水分。果汁100%りんごジュース。
気圧が低すぎるので0℃くらいの温度なのに沸騰してます。
フリーズドライらしきものは確かに作れた。
でも、アルコールに漬かったものだけフリーズドライにできても、それはなんだか結果として微妙じゃないか?
それは実質「不可能」と同じなんじゃないか……?
そこで思いついたのがこちら。
木綿豆腐です。冷蔵庫に入ってました。
軽く水抜きして3mmくらいの厚さに切って、同じ手順でフリーズドライにしていきましょう。
こちらに真空で10時間乾燥させたものを用意してあります。
失礼いたしました。
やることも乾燥する過程もあまりにもりんごの時と一緒だったので某3分でクッキングする番組のお姉さんが出てきてしまいました。
それにしてもまさか豆腐の乾燥にこんなに時間がかかるとは……。
今思うとりんごの方は凍らせている間に水分が一部アルコールに置き換わって乾燥させやすくなっていたんでしょう。アルコールなら揮発するし。
豆腐はりんごと違って珪藻土みたいにガッチガチに固まりましたが、こちらもお湯をかけると一瞬で水分を吸ってやわらかくなります。
元の木綿豆腐と比べると食感は少しだけ硬くなった気がします。
あと大豆の風味が強くなってちょっといい豆腐みたいな濃厚な味になりました。
57円で購入した豆腐が120円くらいの味にはなっています。やったね!
今度こそ、お酒の風味もつかずほぼ元の状態に戻るものを作ることができました!
判定しよう
さて、フリーズドライらしきものが出来上がったので判定します。
今回は実際に出来上がったものが「フリーズドライの特徴と一致しているかどうか」で判断していきます。
フリーズドライの特徴はこちら!
参考:フリーズしてドライ? 宇宙でも活躍するフリーズドライ食品:農林水産省
他にも栄養価や保存性のことが書いてありましたが、家では調べられないので省略します。
今回のりんごは……
- お湯(水)をかけたら食感はほとんど凍らせる前と同じになった
- (スピリタス漬けりんごとして見れば)味や風味は乾燥させる前に戻った
- 扇風機の風で転がるほど水分が抜けて軽くなった
豆腐の方も
- 食感は少し硬くはなったがお湯をかけると中まで水分が浸透して元に戻った
- 大豆の風味は強くなったが豆腐の味と香り
- 軽石みたいな軽さになった
つまり…………?
これは成功と言っていいでしょう。いや、大成功です!
りんごはお酒に漬かって味が変わってしまいましたが、
りんごと豆腐をフリーズドライにすることができました!
まとめ
当初の目的通り、低予算でフリーズドライ食品を作ることができました!
これで「フリーズドライ食品の自作は不可能」という定説もくつがえすことができました。
…………。
ただ、誤解を招くといけないので、これははっきり書かせてください。
フリーズドライ専用の機械を使わずに家庭で作れるフリーズドライ食品は
ほとんどありません。
今回のやり方でもフリーズドライにはできますが、
専用の機械と比べて凍結も乾燥も圧倒的にパワーで劣ります。
工場で作られているものがそのまま家庭でも作れるわけではありません。
あと一度に作れる量もめっちゃ少ないので実用性もないです。
豆腐と、アルコールに漬かって味が抜けたりんごは成功しましたが、普通のりんごは失敗しました。
失敗の原因が味の違いにあるとすると、りんごの甘さが乾燥の邪魔だったんじゃないかと思います。
砂糖も塩も、湿気を吸い込んで塊になっているのを見かけると思います。
これらは水分を吸って放さない性質(保水性)があるので、真空になっても水蒸気になって飛んでいこうとする水を糖分が束縛して離してくれなかったんだと思います。
失敗した時にりんごの外に出てきた水、かなり甘かったし。
もしその考えが正しければ、しょっぱいものもフリーズドライにはできないでしょう。
あれ!?……ってことは味噌汁のフリーズドライ作れないってこと!!?!?
――残念ながらそういうことです。
アッファ~~~~~~~~
※失敗の原因を断言できるほど検証する時間はなかったので、原因は全く別かもしれません。
ということでまとめです。
以上です。
さて、専用の機械ほど高価ではなかったとはいえ、フリーズドライを自作するための機材の購入費で元々季節外れの大寒波が到来していた私の懐は氷河期に入ってしまいました。
手元に残ったのは今回使った機材のみ……。
というわけで、新しく仕事を始める or 死 という状況まで追い込まれてしまいましたので、この辺で失礼させていただきます。
それでは。
数年後
――ピンポーン
こんにちは!エアコンの取り付け工事に参りました!
あら、待ってたわぁ~。どうぞ入って~。
お邪魔します。壊れたのは2階のエアコンでしたっけ?
そうなの、こっちよぉ~。普段はこの部屋で寝ているのだけれど、最近すっごく暑いじゃない?エアコンが壊れちゃってからよく眠れなくってねぇ。
それは災難でしたね……。すぐに新しいのと交換しちゃいますね!
よろしくね~。
……あら?今業者さんが持ってきた機械、なんだか……
りんごの香りがしたような……
終わり